「リンちゃん、ずっとあんなだね……今こそ、レオが慰めてやるときなんじゃないの?」
ライムはレオに近づいて問う。
出来ることなら慰めてやりたいと思った。
だが、果たして俺にあいつを慰める権利なんかあるのか?
俺が別れさせたのに。
レオは無言で首を横に振った。
「……レオまで、どうしちゃったの?」
「いや、あいつのことなんか……俺には関係ねぇよ」
いつの間にか自分でも驚くような台詞を吐いていた。
今まで、あいつのことなら例え関係なくても力になりたいと思って色々世話を焼いてきたし、気を使ってもみた。
リンは妹みたいな存在だったのに、そいつの幸せな日々を奪い取ったのだ。
ラウルのことを考えながら何かをしているあいつは、楽しそうで幸せそうだった。
それを、何もかも奪ったのは……。
「俺……だ」
「ん? どうしちゃったのよ、レオ。あんたらしくない。いつもなら、リンちゃんの肩叩いて休憩室に閉じ込めて、あーだこーだ説教するくせに」
ライムは腕組してレオを睨む。
「俺、そんなことしてたか?」
「うん」
「……記憶にない」
「ついに老化が始まったっぽいね」
いつもならそこで反論するのだが、レオはため息をついただけだった。
「そろそろ終わりにしよう」
と、ロアの声がかかる。
いつも無表情で素早くエプロンを外して帰る準備を始めるリムは、今日も休みだった。
この一週間、ずっと休んでいる。
「ロアさん、リムは何て言って休んだんですか?」
レオは思い切ってロアに訊ねてみた。
「ん? 風邪引いたって言ってたけど」
「風邪……?」
「うん、何でも重病らしいからしばらくは来れないらしいよぉ?」
「……そう、ですか」
「あぁ、じゃ、お疲れ様」
ロアはレオの肩をぽんと軽く叩いて店の休憩室に入っていく。
レオはふとリンの姿を探した。
けれど、リンは既に家に帰った後だったらしい。
店内には茜色の光が差し込んでいた。