ラウルと別れて一週間が経った。

いつの間にか外は金木犀の香りで溢れている。

金木犀は何百年も昔から守られてきた木で、今現在も各地に植えられている。

けれど、我が国日本の象徴だった桜はいつの間にか姿を消して……まぁ、そんな話どうでもいいや。

とにかく、秋になったのだった。

「……ンっ……! リンっ!」

「え、あ、何?」

直ぐ横に怒った表情を浮かべたレオがいた。

「何じゃねぇよ。お前、同じ花にどれだけ水やったと思ってんだっ。根腐れしちまう!」

「あ」

あたしはジョウロの口を上に上げた。

「ごめん」

「……お前、まだ根に持ってんのか?」

「……」

「おいっ」

「あ、ごめん。何か言った?」

レオはすっと目を細めた。

あたしは苦笑する。

全然周りの声が聞こえないのだ。

ラウルの笑った顔とか、寂しげな顔とかが脳裏に浮かぶ度にため息が出てしまう。



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リンの様子がおかしくなったのは、ちょうどラウルと別れてからのことだった。

レオの頭には、今でもリンの泣き顔が消えないで鮮明に残っている。

苦しいのに、何もなかったように微笑むリンを見ていると、本当に心が痛んだ。

どうしてそんな満面の笑みが浮かべられるのか、レオは不思議でならない。

けれど、気がつくとリンはぼぉっと宙を眺めたまま停止することがあった。

現に、今だって花に水をやったまま停止してたし……。

それに、人の話が全く聞こえていないようだった。

ラウルのことを思い出しているということは分かる。

そこまでリンを追い込んだのは自分だということも分かっていた。

こんな思いをするのは承知でリンとラウルを別れさせようと決心したのに、いざとなると本当に心苦しい。