あたしは指輪を抜き取り、ラウルに手渡す。

そして、店に逃げるように入り込んだ。

店に入ると、皆の視線があたしに注目する。

見ていたのだろうか。

「遅くなってすみません、ロアさん」

あたしは何もなかったような笑顔を浮かべてこう言った。

「あ、いや。いいの?」

ロアは気まずそうにあたしを見つめている。

「何がですか?」

「……いや、何でもない」

「さぁて、働かないとっ」

あたしは背伸びをして、仕事に取り掛かった。

もうきっと、ラウルとは二度と会うことなんてないだろう。

あたしは店の外を眺めた。

けれど、そこにはもうラウルの姿はない。

もう、いい。

これで、良かったんだから……。



□■□■□■



 花屋の休憩室で、一人の少女がいた。

少女は苦しそうに胸を押さえ、咳き込む。

そして、少女は自分の手を見て驚愕の表情を浮かべた。

「透けてる」

手や腕を天井の電気にかざしてみる。

と、その手や腕から光が漏れていた。

鏡をふと見ると、自分の姿が映っていない。

手や腕は、少しすると元に戻った。

が、鏡は相変わらず自分の姿を映すことはない。

「……時が来る」

そう言って、少女は休憩室から出て行った。