何もかもが信じられなかった。
あんなに張り切っちゃって、馬鹿みたい。
もしかしたら、きっとあれは何もかも夢だったのかも知れない。
今から目覚めたら、きっと今までのことは何にもかもなかったことになってたら、どんなに幸せだろう。
あたしはベッドにうつ伏せて泣きながらそう思っていた。
と、誰かが家に入ってくる気配がする。あたしは慌てて涙を拭き取った。
「……お帰り」
「何だ、まだいたのか?」
父は眉を潜めてあたしを見つめていた。
「……ううん、帰ってきたの」
「あぁ、戻ってきたのか?」
父はあたしが遊びに行って、またこの時間に帰ってきたと思っているみたいだった。
「ん、バイト……行ってくるね」
「疲れてるなら休んだ方が……」
「いいの」
あたしは手ぶらで、心配そうに見つめる父を背に家を飛び出した。
どうせ、遊園地行った後にバイトは行くつもりだったし。
それに、父に心配なんてかけたくなかった。
花屋の前には見覚えのある男性が立っている。
あたしは立ち止まった。
「……何しに来たの?」
自分でも驚くほど低い声が出た。
ラウルは申し訳なさげにあたしを見つめている。
「リン、悪かった。俺、全然そういうつもりじゃ……」
「……ねぇ、もう止めよ」
あたしは薄く笑みを浮かべた。
「きっと、ここまでなんだよあたしたち。どうせ別れなきゃいけないなら、今別れておいた方が……」
ラウルはぎゅっと、いつもより強めにあたしを抱きしめた。
「ちょ、店の前で……」
「こんな別れ方で、いいのか?」
あたしは下唇に噛み付いた。
こんな別れ方でいいはずない。
だけど、あたしたちは別れなきゃいけないのだ。
あたしはラウルを突き放した。
「もう……二度と来ないで」