あたしはラウルのアパートの前でタイムマシーンを止め、ラウルの部屋に向かった。

と、扉が開いている。

あたしは不思議に思って中を覗いてみた。

そして、目を見開く。

ラウルはあたしに気づいて、女の子を慌てて突き放した。

「ら……ラウル……?」

あたしは全てが信じられなかった。

あんなに優しいラウルが……。

「リン違っ……!」

気がつけば、あたしの瞳からは涙が溢れていた。

力も抜けて、バッグが手から落ちる。

涙で視界が歪み、ラウルの表情が分からなくなった。

あたしは下唇を噛み締め、バッグを拾って走り出した。

「リンっ……!」

あたしはラウルの叫び声を背に、タイムマシーンに向かって走る。

と、アパートに向かってくるフィルシアとぶつかりそうになった。

「リンちゃん!?」

フィルシアは驚愕の表情であたしを見つめている。

あたしはそんなことお構いなしにタイムマシーンに駆け込んで、家へ戻って行った。



□■□■□■



「リンっ……!」

レオがリンを呼び止めたときには、既にリンはタイムマシーンに乗り込んだ後だった。

その後直ぐにタイムマシーンは消えてしまう。

レオはその場に立ち竦んでいると、前からフィルシアが怒った表情でこっちに向かって来た。

「あなたでしょ!? あんなことするように仕向けたのはっ!」

レオは俯く。

「……仕方……ないんです。これがあいつにとっての幸せ」

レオはゆっくりと何もかも説明する。

フィルシアはその真実を聞いてしばらく何も話せないで、ただ口を手で押さえて絶望したような表情を浮かべていた。

「……そ……んな……あ、あたし……知らなくて……」

「ラウルさんには、言わないでください。これで、いいんです。それじゃ、さようなら」

レオは深々と一礼してタイムマシーンに乗り込んだ。

これでいい。

これで、あいつは幸せになれるんだ。

もう、苦しい思いもしなくて済む。

レオの脳裏にリンの泣き顔が浮かんだ。

自分が泣かせたと思うと、本当に心が痛む。

レオはため息をついて花屋に戻って行った。