あたしはラウルのアパートの前でタイムマシーンを止め、ラウルの部屋に向かった。
と、扉が開いている。
あたしは不思議に思って中を覗いてみた。
そして、目を見開く。
ラウルはあたしに気づいて、女の子を慌てて突き放した。
「ら……ラウル……?」
あたしは全てが信じられなかった。
あんなに優しいラウルが……。
「リン違っ……!」
気がつけば、あたしの瞳からは涙が溢れていた。
力も抜けて、バッグが手から落ちる。
涙で視界が歪み、ラウルの表情が分からなくなった。
あたしは下唇を噛み締め、バッグを拾って走り出した。
「リンっ……!」
あたしはラウルの叫び声を背に、タイムマシーンに向かって走る。
と、アパートに向かってくるフィルシアとぶつかりそうになった。
「リンちゃん!?」
フィルシアは驚愕の表情であたしを見つめている。
あたしはそんなことお構いなしにタイムマシーンに駆け込んで、家へ戻って行った。
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「リンっ……!」
レオがリンを呼び止めたときには、既にリンはタイムマシーンに乗り込んだ後だった。
その後直ぐにタイムマシーンは消えてしまう。
レオはその場に立ち竦んでいると、前からフィルシアが怒った表情でこっちに向かって来た。
「あなたでしょ!? あんなことするように仕向けたのはっ!」
レオは俯く。
「……仕方……ないんです。これがあいつにとっての幸せ」
レオはゆっくりと何もかも説明する。
フィルシアはその真実を聞いてしばらく何も話せないで、ただ口を手で押さえて絶望したような表情を浮かべていた。
「……そ……んな……あ、あたし……知らなくて……」
「ラウルさんには、言わないでください。これで、いいんです。それじゃ、さようなら」
レオは深々と一礼してタイムマシーンに乗り込んだ。
これでいい。
これで、あいつは幸せになれるんだ。
もう、苦しい思いもしなくて済む。
レオの脳裏にリンの泣き顔が浮かんだ。
自分が泣かせたと思うと、本当に心が痛む。
レオはため息をついて花屋に戻って行った。