「随分古いアパートに住んでるんだな」

レオはラウルの家に着いて、目の前のアパートを見上げて呟く。

今にも崩れそうなアパート。

絶対何か得体の知れないモノがいる気がした。

雰囲気が重い。

この世にいちゃいけないモノがいそうな、そんな雰囲気だ。

出来ればこんなアパート近づきたくもない。

「あら、あなたはリンちゃんと同じバイト君の……」

ちょうど二階の部屋から出てきたのは、重苦しい雰囲気とは対照的な雰囲気を持った女性だった。

女性はレオを丸い目で見つめながら古びた階段を下りて行く。

「あなたは……」

そこにいたのは、何故かフィルシアだった。

「あ、誤解しないでね。あたし、ラウルと同居してるわけじゃないの。あたしは上の205号室で、ラウルは103号室なのよ」

「……はあ」

なんだかフィルシアの慌てた素振りが、一瞬だけリンに見えた。

「どうしたの? お仕事?」

「あ、いえ。ラウルさんに用があって」

と、言った瞬間フィルシアの表情が暗くなった。

「……リンちゃん争奪戦の開始?」

レオはぷっと吹き出し、笑い出す。

「わ、笑わないでよ。本気で心配してるんだからっ! 見たところ、君もリンちゃんが気になってるみたいだし……」

レオは必死に笑いを堪え、

「……まぁ……そんなとこですかね」

と、曖昧に答えた。

「意地悪なのねぇ。いいわ、今あいつは近くの公園で番組の撮影中よ。殴り合いをしないって約束するなら、連れて行ってあげる」

「大丈夫です。俺、平和主義者なんで」

レオがそう言うと、フィルシアはくすくすと笑った。

「じゃ、来て。あたしも仕事があるから、そんなに長くはついていて上げられないけど」

「はい」

レオは言われるとおりフィルシアについて行った。