「ため息を一回つくごとに幸せが逃げるんだぞ」
父は人事のようにこう言う。
あたしはそんな父を見てもう一度ため息をつくのだった。
「そうだ、メリア先生が今日来た」
「あぁー」
そう言えば花屋でそんなことを言っていた気がする。
「お菓子食べたいなら食べれば」
父はテーブルの直ぐ横に置いてあった、菓子が入った箱をあたしに渡す。
「いい。お店で食べてきたから。明日にでも食べるよ。お父さんはいる?」
「欲しい。今日、何も食ってないから」
よく生きてられるな、とあたしは半眼で父を見つめ箱からお煎餅を一枚出して父に渡した。
「あ、お父さん」
「あ?」
「この頃、具合悪いから今度病院に行って来るね。大したことないんだけど、心配だから」
父は返事もせずにじとついた目であたしを見つめる。
物凄い嫌な目つき。
「……言っとくけど、あたしは何もしてないから。今お父さんが思っているようなことは、絶対にないからっ!」
「ま、そうだろうな。誰もお前を襲うなんて自殺行為しな……痛っ!」
あたしは思いっきり父の右肩を殴った。
さすがに父の頭を殴ることは出来ない。
「仕事出来ないようにするよぉー」
「出来なくなったらお前が稼げよ」
「仕方ないな。今日のところは見逃してあげよう」
あたしは父を睨みながら離れた。
全く、このオヤジは何を考えてるんだか。
あたしはバイト先で泊まっていたってことになっていたはず。
それで襲うって単語、どっから出てくるんだ。
確かに、バイト先にはロアさんもたまに泊まってるけどロアさんとはあり得ないって。
うん、絶対ない。
あたしはそう思ってる。