「あ、いえ。得に用はないのですが。近くまで来ましたのでご挨拶をしておこうかと。あ、これ。どうぞ、召し上がってください」
「あぁ、どうもすいません」
ロウンはメリアから差し出されたお菓子を受け取る。
「小説をお書きになってるんですか」
メリアは横に置かれた原稿用紙を、横目で見つめて問いかけた。
「えぇ、まぁ。恥ずかしながら、私の若い頃の恋愛物語です」
ロウンは苦笑しながら答えた。
「まぁ、素敵ですねっ! ぜひ、読ませていただきます」
メリアはにっこりと微笑む。
「まだ、お仕事はお忙しいんですか?」
「今はこの仕事を優先しているので、そうでもないのですが。でも、まだあの子には苦労をかけてばかりで……。本当に、私は最低な父親です。娘に遠慮をさせてしまったり、気遣わせてしまったりで」
ロウンはそっと目を伏せた。
「そんなことないですよ。リンさんはロウンさんの気持ちを分かっていると思います。ちゃんと、ロウンさんの愛情は伝わっているはずですよ」
「……そうだといいのですが」
ロウンは苦笑気味に微笑む。
それから、数十分話してからメリアはリンの家を出た。