天幕の並ぶ市場は大勢の人で賑わっており、黙ったままのアメリアの耳にはいくつもの声が聞こえてくる。

店主達の元気な謳い文句や、楽しく買い物をする観光客の声。時には軽口を叩いていたり、陽気な鼻歌を歌っていたり。

けれどそんな雑踏の中で、アメリアは強い孤独を感じた。まるで自分だけが周囲から切りはなされて、自分の周りにだけ音のない空間があるような、そんな寂しさだった。

前を歩くシアンの後ろ姿に目を向ける。

シアンは辺りを見渡しながら歩いていた。時折知り合いの顔を見つけては会釈をしていた。

それを見てさらに寂しくなって、アメリアは俯いた。

自分だけがよそ者で、他に繋がれる人がいないのだと思い知らされるようだった。

そんな孤独を感じているときだった。

突然、後ろから腕を掴まれた。

驚いたアメリアが後ろを向くと、そこには柄の悪い若者が数人いた。

アメリアの腕を掴んだ男はにたりと口の端を上げるように笑った。


「なあ、お嬢ちゃん、ちょっと暇か？」


眉間にしわを寄せて警戒するアメリアに、他の男が言う。


「オレ達ここに来たばかりなんだ。ちょっと道案内してくれねえ？」


どうやらこの若者達は観光客らしい、とアメリアは思った。

せっかくマリル港に観光で訪れたのなら、やはり楽しんでいってほしい。そうは思うけれど、アメリアとて今日初めてこの港にやってきたのだ。とても他人を案内できるほどこの土地に詳しくはない。