その言葉にシアンは苛立った。

「なんです、その感想は?」

「え?」

「この僕が、仕事に関してふざけていると思っていたのですか? 心外ですね」


温度の下がったその声に、アメリアは慌てて否定する。


「いえ、そういうことではありません! 本当に真面目なんだなあと思っただけで…」

「当然です! 騎士団をなんだと思っているんですか!」


シアンがこんなにも感情的になっているところを見るのは、アメリアは初めてだった。

アメリアは決してシアンを馬鹿にしたつもりはなかったが、それでもシアンがここまで怒るのはそれほど誇りに思っている仕事だからだろうと思った。この熱さは騎士団に対する情熱だ。


「ご、ごめんなさい」

「もう、いいです」


アメリアは謝ったがシアンはふいと顔を背ける。

それを見たアメリアは、やってしまったと自分の発言を悔いた。

本当はシアンと少しでも距離を縮めなくてはいけない。少しでも仲良くなって、我がミルフォード家との婚約を進展させねばならない。

それがアメリアに託された使命、アメリアが騎士団に来た理由だからだ。

それをアメリアは重々承知していたのに、実際はシアンに反抗して対立してばかり。それどころか今、シアンを怒らせてしまった。

距離を縮めるどころか、逆に溝を深めてしまった。

最悪だ。

先ほどまでは色鮮やかに見えていた天幕も、今のアメリアには空しく見えてしかたがなかった。