こんなにもじっくり市場を見て回ったことのないアメリアは、市場の様子に思わずはしゃいでしまった。

そんな浮かれているアメリアに、シアンは溜め息を吐く。


「何を浮かれているのですか。言っているでしょう、これは遊びではなく仕事です。貴女に限って言えば勉強なのですよ」

「いいじゃないですか。せっかくのマリル港なんですから、楽しまないと」


いつもは苛立つシアンの言葉にも、今のアメリアには気にならなかった。目に映る世界が鮮やかだったのだ。

無邪気な笑顔を見せるアメリアに、シアンはこれ以上意地悪な言葉を言う気にはなれなかった。


「本当、気をつけてくださいよ。ここは、楽しいばかりの港ではありません」


返事をしながらアメリアは、シアンの言葉よりも目に映る天幕の彩りに惹かれていた。

ずらりと並ぶ天幕の間を歩きながらアメリアはひとつ尋ねた。


「見回りって何をするんですか?」

「市場で犯罪行為がないか見て回ります。それから情報収集です」

「情報収集?」

「ここは港、国内外の情報も多く集まりますし、いち早く知ることができます」


シアンが直々に港町へ行くという意味が、ようやくアメリアにも納得できた。

騎士団長であるシアンは、多くのことを判断する立場にある。そのためにはより多くの情報が必要で、それはいち早く手に入れなければならない。


「真面目なんですね」