弟妹でも小さな子どもでもない人、それも自分より目上の存在を呼び捨てで呼ぶだなんて。

まるで恋人になったみたいだなんて柄にもないことを思ってしまった。

本当は、恋人どころか好きになってもらえる確率の低い相手だと言うのに。

ちらりとシアンを盗み見る。

シアンはいつもと変わらない表情をしていた。ほとんど真顔だ。流石は仕事に忠実な青藍の騎士。


「まずは人通りの多い市場から行きますよ。迷子にはならないでくださいね。迷惑ですから」

「迷子になんてなりません!」


もう子どもではないのだからと反論するアメリアに、シアンは冷ややかだった。


「どうでしょうね。世間知らずな娘は無知な子どもとほとんど同じです」

「もう、どうしてそんな酷いことばかり言うんですか!」

「事実を述べただけですよ」


そんな会話をしているうちに市場にたどり着いた。

やはり市場は大勢の人で賑わっていた。

あちこちの天幕から商品を宣伝する元気な謳い文句の声が聞こえてくる。


「行きますよ」


シアンの言葉で、アメリアも市場に足を踏み入れた。

港の市場ということもあって多くの店で採れたて新鮮な魚介類を扱っていた。

しかしお店は魚介類だけではなかった。

マリルで育った野菜の他にも輸入したての異国の商品を扱うお店も並んでいる。その扱うものは様々で、花や本、髪飾りや文具、更には食器や武器に至るまでありとあらゆる物があった。


「すごい活気ですね、なんだか見ているだけで明るくなれそう」