「いつものことですが、馬をお願いできますか?」


基地長は「分かりました」と笑顔で手綱を受け取った。


「いつものように、ご入り用の時にはすぐお引き渡しできるようにしておきます。私でなくとも近くの団員にお申し付けください」


「助かります」


それだけ言うとシアンは歩き出してしまった。

アメリアは慌てて基地長達に一礼すると「待ってください!」とシアンを追いかける。


「酷いです、団長!置いていくなんて!」


やっと追いついてシアンに言うと、シアンは振り返ってその人差し指でアメリアの唇を軽く抑えた。


「ここではその呼び名は禁止です。シアン、で構いません」

「え?で、でも…」


子爵家のアメリアにとって、伯爵家のシアンを呼び捨てにするなど言語道断。とても抵抗のあることだった。

しかしシアンは眉間に皺を寄せて「そうでなくては困ります」と小さな声で言った。


「ここには見回りに来ているのです。僕の身分がことがバレるような発言は一切禁止します。様付けも無しです」


「団長命令です」と言われてしまったアメリアは、もうこれ以上何も反論することはできない。従うほか術はないのだ。


「分かりました。…シアン」


それは不思議な感覚だった。