「もう、いいです。基地長はいますか? 顔を出したいのですが」


シアンが男性に問うていると、基地の奥から軍服を着た男性がやって来て「お呼びですか」と声をかけた。

それは落ち着いた雰囲気と穏やかな笑顔が特徴的な男性だった。

シアンと同じくらいの背に、茶色の髪。シアンより幾分年上に思える。

シアンは彼を「基地長」と呼んだ。どうやら彼がこのマリル基地の長らしい。


「すみません、ご迷惑おかけしました。こいつ、新入りなんです。どうか大目に見てやってください」


朗らかな笑みを絶やさない彼に、シアンは「構いません」と言うだけだった。

「ありがとうございます」と頭を下げた基地長は、ようやくアメリアの存在に気付いたらしくシアンに問うた。


「彼女はアメリアといいます。つい先日、団長室担当になりましたが、とても未熟なので、勉強がてら共に見回りをすることになりました」


なんてトゲのある紹介だ、と思いながらもアメリアは頭を下げる。

基地長は「そうでしたか」と少し驚きながらも穏やかな笑顔を見せた。


「ここマリルは港町で人も物もたくさんのものが入ってくる、とても面白いところです。団員が守りを固めていますが、何かありましたら基地においでください」


なんて優しい人だろうかとアメリアは思った。

団長はあんなにも冷酷無比で毒舌で堅物で腹黒いというのに、そのまわりの人々はこんなに温かい。

アメリアは心から感謝した。

それを見ていたシアンは微かに舌打ちをして、それから馬の手綱を基地長に差し出した。