それを聞いたシアンは「そうですか」と素っ気なく小さな声で返事するとまた前を向き直して馬を走らせた。

次第に濃くなる潮の香りと明るい賑わいの声がアメリアに届く。


「ここが、港町ですか」

「ええ。マリル港(みなと)です」


馬から下りたアメリアが目にしたのは、普段とは全く違う街の様子だった。

オレンジ色の瓦と白い壁で統一された家々に、新鮮な魚介類がずらりと並んだ即席の市場。それは色とりどりの天幕で屋根を作っているだけのとても簡易な作りだった。

たくさんの人で賑わい、皆楽しそうな顔をしている。耳を澄ませば軽口なんかも聞こえてきて、人々から笑いが耐えない。

そして天幕の向かいには、遠くまで続く青い海。

波に浮かぶ大きな客船や漁船が、いくつもの太い綱で桟橋に固定されている。

どうやら荷を運ぶ船も泊まっているらしく、大勢の人が船から荷を降ろしていた。

よく見ると荷を降ろしている人の中には、見慣れた青い軍服の人々がいる。

アメリアの様子に気付いたシアンは「あれは青の騎士団の者です」と説明した。


「青の騎士団は基本的にこの辺りの地域の管轄しています。国王や他の騎士団からの要請があればこの限りではありませんが」


シアンの説明を受けながら騎士団員の様子を見ていると、降ろした荷の中身を事細かに確認しているらしかった。

小さな袋の中身に至るまで徹底的に調べ上げている。


「ここ、マリル港はこの国で一番栄えた港です。外国から運ばれてくる荷物も観光客も非情に多いので、その分警戒しなければなりません。いわゆる危険地帯です。

この国に害を成すものが入ってこないように、人も物も徹底的に調べ上げる必要があります」