シアンはそれについて否定も肯定もしなかった。けれどシアンが黙るときは大概それは肯定の意味だ。

なんて腹黒い人なんだとアメリアは苛立った。こんな時になんて嫌味を言ってくるのだ、と。

アメリアは今までにも散々他の令嬢から嫌味や悪口を散々に言われ慣れているが、シアンに言われると余計に腹が立って抑えきれなかった。

しかしそんなアメリアに、シアンはひとつ提案をした。


「馬に乗れないのなら、僕の後ろに乗りますか?」


驚きのあまりアメリアは瞬きを繰りかえす。


「聞こえていないのですか? ああ、もう時間がもったいないですね。

いいから僕の後ろに乗ってください」


眉間にしわを寄せながらもう一度言うシアンにアメリアは尋ねた。


「それは、団長と同じ馬に乗るということですか?」

「ええ。不服ですか?」

「いえ、そんなことは…」


アメリアが言い終わらないうちにシアンは手綱を引っ張って馬に乗った。

馬に乗ったシアンはアメリアを見下ろしながらも「早く」と手を差し伸べる。

不意打ちの優しさにアメリアの胸が鳴った。


(なんで、こんなにも心臓がうるさいのだろう。シアンはとても腹黒い人なのに。)


アメリアは混乱していた。散々に嫌味を言ってくるシアンに胸が鳴るなど、そんなことを信じたくなかった。


(そうだ、これは何かの間違いだ。突然で驚いただけだ。)


そう思いながらその手をとって、アメリアはシアンの後ろに乗った。