シアンとアメリアは騎士団内の馬小屋に来ていた。

騎士団に馬車など存在しない。港町への移動手段は馬だけなのだ。

アメリアが困ったと思っていると、黒い毛並みの馬の手綱を持ちながらシアンが尋ねた。


「そういえば、貴女は馬に乗れるのですか?」


アメリアは首を横に振った。

貴族の令嬢は身に着ける教養が多い。踊りや礼儀作法は特に幼いころから叩き込まれてきた。

しかしながら乗馬は子息が習う事柄。それを習う令嬢はほとんどいない。アメリアもその例外ではなかった。


「乗馬は習ったことがありません」

「意外ですね、貴女なら乗れるのかと思っていました」


皮肉にも聞こえるその言葉にムッとして、アメリアは「どういう意味です」と問うた。


「貴族の娘のほとんどは乗馬など習いません。それは団長もご存知のはずです。それとも私はそれほどお転婆だと思われているのでしょうか?」

「そんなにムキにならないでくださいよ。ただ貴女ならそういうこともしていそうだなと思っただけです」


白々しいことを言うシアンにアメリアは懐疑的だった。

とてもシアンが素直にそんなことを言うとは思えなかったのだ。


「貧乏貴族ならそんなこともするのではないかと思ったのではないのですか?」