「ありがとうございます、副団長」


アメリアはスカートのすそを持って仰々しく挨拶してみせた。


「さすが、美しい所作だな」


レオナルドのその言葉を聞くまで、アメリアは自分がスカートの裾を掴んでいたことに気付かなかった。考えるよりも先に手がすそをつかんでいたのだ。

貴族の令嬢として染みついたその仕草はほとんど癖に近かい。

今まで令嬢として身につけてきたものはなくならないのだとも思うけれど、もう一度自分の服装を見直すと自分が底辺でも貴族の令嬢だなんてとても思えなかった。

飾り気のない生成りのブラウスに、黒いビスチェと深緑のスカート。どれも生地は粗く、装飾もほとんどない。言ってしまえば、とても地味だった。

けれどアメリアは嫌な気分はしなかった。普段着るようなドレスよりも、この服装のほうが動きやすい。自分が貴族の令嬢だと変な気負いをしなくてもいいことも、好む理由のひとつだった。


「随分嬉しそうな顔をするのですね」


シアンの言葉に「そうでしょうか」とアメリアは答えながらも、自分の気持ちを顔に出してしまったと恥ずかしく思った。


「平民の服を着て喜ぶ令嬢は貴女くらいでしょう」

「それは褒めているのですか?」

「さあ」


溜息を一つ吐き出すと、シアンは「行きますよ」と言って一人で勝手に歩き出してしまった。


「ま、待ってください!」


アメリアは慌てて追いかける。

そんな二人をレオナルドは温かい目で見守っていた。