「かわいいじゃん、里香っぽい」
「本当?」
「買っちゃえば?」
みいはそう言うと、白いTシャツだけを腕にかけた。
「あっ、衣紋掛お返しする派?」
「エモンカケ……」
くくく、とみいは控えめに笑う。
「えっ、衣紋掛でしょ?」
「今時言わないでしょ、最近じゃ小学校で豆知識程度に教わった古文でしか聞いたことないよ」
「古文?」
半分叫ぶように聞き返すと、シーッ、と人差し指を立てられた。
申し訳ねえ、と軽く頭を下げる。
「古文だよ古文。あたし、日常的に使ってる人ひいばあしか知らないもん」
「うそお……」
「これは、この時代ではハンガーって言うの。ハンガーね。よく覚えといて」
「知ってるって。わたし、過去と現在を行き来する能力持ってないから。タイムなんちゃらーじゃないから。
ただ純粋に、衣紋掛が普通だと思ってただけ」
「なんちゃらーじゃなくてトラベラーね。タイムトラベラー。
……あっ。じゃあさ、マフラーってなんて言う? 冬、首に巻くやつ」
「知ってるよ、襟巻きでしょ?」
「エリマキ」
それもひいばあ言ってた、とみいは楽しそうに笑った。