われら東高等学校の王子様こと、小野寺くんは、自身が教室に入ってもなお廊下で手を振り続ける女子たちに、
爽やかさとかわいさを兼ね備えた照れくさそうな笑顔で会釈し、自席へ向かった。
彼の席は、廊下側から4列目の前から3番目で、わたしの席からちょうど2列ずれたところだ。
小野寺くんが荷物の片付けを始めると、女子たちは賑やかにそれぞれの教室へ向かった。
それをなんとも言えない表情で見送ったみいは、自身の隣の席にいる男子に、
「小野寺くんみたいなのって憧れる?」と尋ねた。
長方形の黒縁眼鏡をかけた、いかにも真面目くんといった雰囲気の彼は、「べつに」と冷めた声を返す。
「本当に? 実際はちょっと憧れちゃったりしちゃってんじゃないの?」
「べつに。俺、本だけあればいいから」
「彼女など要らないと?」
「まあ」
「でもお主、女の子は結構釣れるんじゃないのかい?」
わたしが言うと、彼はやはり「べつに」と一言で返した。
「そうなんだ……もったいない。えっ、君名前なんていうんだっけ?」
「名乗るほどじゃない」
「ちょっ、あんたそういうこと言える系なんだ、意外すぎて笑える」
はははと楽しそうに笑うみいにつられてか、後ろの席の彼も微かに表情をやわらげた。
みいは「そのキャラ解禁したほうがいいよ、『我の名は名乗るほどのものではない』キャラ」とさらに笑い、
「笑いすぎて涙出てきた」と目元を指で拭った。