翌日、昨日の夜にテレビで聴いた昭和の名曲を口ずさみながら昇降口へ入ると、後ろからみいの声が聞こえた。
その昭和の名曲を口ずさんだまま振り返ると、「古くない?」と言いつつみいも口ずさんだ。
上履きに履き替え、最後まで歌い終えたその名曲を最初から歌い始めた。
前奏から2人で再現する。
「えっ、待って。そこ『が』じゃないの?」
Aメロの途中でみいが言った。
「えっ、『は』じゃないの?」
わたしが返すと、みいは歌詞が食い違った部分を鼻歌で歌った。
何度か繰り返すと、「あっ、『は』だ」と笑う。
「でしょ?」
リズムに合わせて動かしたわたしの手を合図に、再び歌い始めた。
アーティスト本人の独特な歌い方を忠実に再現して最後の部分を歌いながら教室へ入ると、
すでに登校していたクラスの半分ほどの生徒の視線を浴びた。
自分の顔が赤くなっていくのを感じる。
「おい若者、さてはこの名曲を知らぬのか?」
恥ずかしさを吹き飛ばすつもりで言うと、「普通知らないでしょ、この歳で」とみいがつっこんでくれた。
そうだよね、とその流れで苦笑する。
「失礼しましたあ……」と言いながら、みいと2人、頭を下げつつ自席へ向かう。