声を掛けるか、そうするならばなんて声を掛けるか。
やめておこうぜと自分をなだめると、こんなチャンスは今後二度と訪れねえぞとさらに暴れ出す。
商品として並ぶ雑誌に手をつき、なるべく静かに深い呼吸を繰り返す。
「……よし」
呟くと同時に、行ってやろうじゃねえかと思考の世界も盛り上がった。
わたしは再び姿勢を正し、毅然とした雰囲気を醸し出す。
レッツラゴー、と呟き、遠山 翔がいたほうへ向かった。
遠山 翔を見つけると、今度は一気に自然な藤崎 里香に戻した。
足音を立てないことだけに集中し、遠山 翔に接近する。
そして遠山 翔の真後ろに立つと、「まさか、まさかこの俺様が女に振られるとは――」と戦闘もののアニメキャラのようなトーンで囁いた。
遠山 翔は驚いたように振り返る。
わたしは彼と目を合わせるとにやりと笑い、
「俺はいつも振る人間だった。
あの女も、俺に振られるはずだった。
それなのになぜ……。
俺のなにがいけなかった、なにが悪かった。
あの女は、この俺のなにに飽きた――」と先ほどのトーンで語った。
「……って感じ?」
満面の笑みで、地声よりも少し高い声で言うと、遠山 翔は「べつに」と一言放った。
「嘘だね。あんた、お洒落なんかに興味なかったじゃん。
違う学校に通う猫目のかわいい女の子に振られたのがショックなんでしょ? 認めなよ」
弟を相手にするように言うと、「ちびのほうこそ、未だ孤独なんじゃねえの?」と返ってきた。
さらに遠山 翔は、「お前にとって俺以上の男なんていねえんだから」と自信ありげな笑顔で続けた。
わたしは、待ってましたよカケルくんと心の中で呟く。