薫くんが本棚を閉じたとき、彼が新たに本が欲しいと言っていたのを思い出した。
「あのさ」
わたしが言うと、薫くんは綺麗な目でわたしを見た。
「もう、欲しい本あるんだよね?」
「そうなんだよ。行っちゃいけないと思っていながら、気づいたら本屋にいてさ。そしたら、もう……ね」
欲しいもの出てくるよね、と薫くんは苦笑した。
「じゃあさ、こんな立派な本棚も作っちゃったことだし、薫くんのお財布が許すなら今日買っちゃえば?」
「えっ?」
「ディスカウントストアも水族館も、みんな薫くんが付き合ってくれたから、今日はわたしの番。
ここからなら、結構近くに大きめの本屋さんがあるでしょ?」
「まあ……。自転車で20分くらいかな」
「だよね。じゃあ行こうよ」
「本当に?」
滞在時間かなり長くなるけど……と本屋へ行くことを躊躇う様子を見せる薫くんに、
「全然大丈夫だよ。時間つぶし能力ならプロ級だし、わたしも本屋さん自体は嫌いな場所じゃないから」と笑いかけた。