「無事でよかったよ」
「無事だよ」
という言葉を交わし、中へお邪魔した。
直後、「弟のやつ、今日は本当に友達の家に行ってるから静かだよ」と薫くんは言った。
弟という言葉で水族館の土産を思い出し、わたしは「あっ」と声を上げた。
「そういえば、弟くんの反応、どうだった?」
階段を上っている途中、数段上にいる薫くんに言った。
「反応?」
階段を上り終えて振り返った薫くんが頭の上に疑問符を浮かべる。
「水族館のお土産。無地のお箸買っていったじゃん」
わたしが言うと、薫くんは「ああ、はいはい」と大きく頷いた。
「めっちゃ不思議がってたよ」と部屋へ向かいながら言う。
「里香の弟くんはどうだった?」
部屋に入ると同時に投げ掛けられた質問に、「箸から転写したのかって言ってた」と返す。
薫くんは「面白い子だね」と笑う。
「『箸から転写したのか』か……」
そうそう思いつかないよね、と言ってさらに笑った。