弟と争うように歯磨きと洗顔を済ませて玄関を飛び出すと、

休日用の、たくさんのスマイルが描かれた黄色いスニーカーでペダルを踏み込んだ。

1番得意な重さのギアで でかい自転車を飛ばしていると、後ろから弟が追ってきた。

わたしを少しだけ追い越すと、彼はすぐにスピードを落とした。

「なにあんた、どれだけわたしのこと好きなのよ」

わたしが挑発すると、弟は再びスピードを上げた。

彼の性格から、直前には舌打ちをしたと予想できる。

わたしは立ち上がり、普段はこちらを操ってくる自転車を今回はこちらが操り、弟を追った。

彼の漕ぐ自転車は幼い頃と比べるとかなり速くなっているが、必死に逃げる背中はすぐに近づいた。

身長に合っていない大きさの自転車を乗っているということで弟はわたしを舐めているが、

わたしは本気を出せば、運動神経抜群の同い年の男子より自転車だけは速いのだ。

簡単に逃げ切るなどという快感は与えない。