「お母さんのはねえ……」
はいこれ、とクッキーの入った大きな袋を差し出す。
「クッキー。あそこの水族館限定パッケージなの」
「へええ、ありがとう」
こんなものを買ってお小遣いは足りるのかと訊いてくる母に、あと半月まあ頑張るよと笑い返す。
「開けて開けて、かわいいから」と促すと、母は袋からクッキーの箱を取り出した。
「ああ、これ」
母が言うと、俺がめっちゃ好きなやつじゃん、と弟が首を突っ込んできた。
「里香、あれだな? 間違えたんだよな、俺へのお土産と、母さんへのお土産」
なっ、なっ、そうだろう、なっ、と執拗にわたしの頷きを求める弟に、「違うよ?」と一言で返す。
「このクッキーがお母さん用、あの『びっくりチョップスティックス』があんた用。間違いないよ」
「まじひどい。鬼。普通さ、5歳も下の小学校6年生の弟相手にこんなお土産買ってくる?」
弟は言いながら、母にびっくりチョップスティックスを見せつけた。
「あら、シンプルなお箸」
「ひどくない? シンプルと言えば聞こえは非常にいいが、絵も文字もなにもないんだぜ? 新手の児童虐待だよこれ」
弟のぼやきに、母は「わたしはこの色好きだけどなあ」とのんきな言葉を返す。
「色の問題じゃなくて――」
「あまり派手なものよりシンプルなほうがいいよ」
鳴り響く固定電話の音に呼ばれ、母はわたしたちのそばから離れた。
母に味方されていない弟を初めて見たものだから、なんだか嬉しくて笑ってしまった。