なんとかリビングに辿り着くと、荷物に押しつぶされるようにしてソファに倒れ込んだ。
ハンバーグだと予想できる美味しそうな匂いが嗅覚を刺激する中、「里香おかえり」とキッチンから母の声が聞こえた。
「疲れたぜ」と返し荷物とともに眠ってしまおうかと思った直後、「お土産」と弟が手を差し出す。
「ああ、はいはい。とっておきの買ってきたから」
体を起こしている途中で、「まじで?」と嬉しそうな弟の声が聞こえた。
脚をソファの下へおろし、弟用の箸が入った袋を彼に渡す。
「……鉛筆?」
弟は袋を揉むように触り、嫌そうに呟く。
「いいから。開けてみ」
「言われなくても開けるし」と言い、弟は袋を開け、かわいいパッケージの箸を取り出した。
「……ああ、箸」
「かわいいでしょ? 水族館の名前も入ってるの」
「本当だ」
「学校に持って行ってもいいわよ?」
「こんな派手なの持って行かねえし」
「ああそうですか」
わたしは「へんっ」と笑い、それはその包みを開けてから言いなさいと心の中で続けた。