「ああ。それ読んだとき、笑いこらえるの大変だったよ」
左斜め後ろ辺りから声が聞こえ、振り返ると薫くんがいた。
「弟くん用のお土産、決まった?」
「いやあ……まだ。それにするかも迷ったけど」
あいつ決してピュアな心じゃないし、と笑う薫くんに、
「ピュアな心じゃないからこそ買っていくんだよ」と笑い返した。
我ながらかなり悪い笑みを浮かべられたと思う。
「じゃあ里香、弟くんへのお土産は……」
「もっちろんよ。この『びっくりチョップスティックス』とかいう代物を買っていってやるわ」
「まあ、実用性はあるよね。滑り止め付きだし」
「でしょ? きっと相当喜ぶよ」
わたしは言いながらバッグから携帯を取り出し、カメラを立ち上げた。
「薫くんは? 弟くんに買っていかないの?」
「ええ……」
どうしよ、と呟きを挟み、「里香が買うなら買ってこうかな」と微かな笑みを浮かべた。
「おっけー。薫くんも買うんじゃさ、ちょっと付き合ってくれない?」
「ん?」
「一緒にこの紙の前で親指を立ててほしいの。弟へのネタバラシのときに見せる写真を撮ろうかと思って」
わたしはそう言うと、箸の説明が書かれている紙の前で左手の親指を立てた。
薫くんも「いいよ」と頷き、わたしの左手の反対側で右手の親指を立てた。
「さん にい いち あいっ」
短めに3つ数え、シャッターを切った。
「おっけー、ばっちり」
わたしが携帯をしまうと、薫くんは「俺も撮っていい?」とジーンズのポケットから携帯を取り出した。
「いいよ」
わたしは言いながら、先ほどの薫くんの位置で右手の親指を立てた。
薫くんはさらりとシャッターを切ると、「おっけー」と携帯をしまった。