水族館へ行くという約束が果たされたのは、宿題を終わらせたあとの8月中旬のことだった。
水族館への交通手段は、バスと電車だった。
とても自転車では行ける距離でない、それでいて家からは最も近い駅までバスで行き、そこからは電車を使った。
最初は県内の水族館へ行くつもりだったが、そこへ行くならいっそ都会まで行ってしまったほうが楽だという話になり、
わたしたちは今、高い建物に囲まれた水族館にいる。
「うわあ、すごい。自分も魚になった気分」
比較的人の少ない青のトンネルで、わたしは軽く腕を広げた。
「なんか落ち着く」
「ね。どこにでも魚がいるようなこんな景色、普通の生活で見ないもんね」
わたしが「おっきいの来た」と言うと、薫くんは笑った。
「エイってなんかかわいいよね。疑問符が似合う」
「なんかほわんとしてんのね」
「そうそう」
優雅にわたしたちの前から去っていったエイを見送ると、薫くんと2人、再び歩き出した。