薫くんの財布で最高の2時間を過ごすと、わたしたちはショッピングモール内に入っていた服屋に立ち寄った。
特に目的の品があるわけではなかったが、怒り狂ったかのような夏の太陽の下で再び1時間も自転車を漕ぎ続ける勇気が、わたしたちにはなかったのだ。
店内を1周したら出ようという気で歩いていると、三つ編みのような形の茶色い小洒落たベルトが目に入った。
そのベルトの前で足を止め、手に取る。
「普通にかわいい」
濃い茶色の、知り合いの女の子曰くかぼちゃパンツと呼ぶらしい短パンに合わせた
白いベルトの上から、手に取った茶色いベルトを巻いた。
「今のズボンだと目立たないけど……どう?」
「いいと思う。デニムなんかに合いそう」
「ああ、そうだね。薫くん、服屋さんで働いたら? 薫くんがいたら、その店一気に売上が上がりそう」
わたしが言うと、「いやいや」と薫くんは笑った。
「普段、スウェットか1円でも安いTシャツしか着ないような人がそんな仕事に就いたら業界の人に怒られるよ」
薫くんの言葉に、わたしはこの上ないほどの喜びを感じた。
「薫くん、スウェット好きなんだ。わたしも大好き」
「おお。俺さ、毛玉になる素材の服大好きなんだわ」
「わかるわかる、毛玉は気が向いたときに取ればいいし、なによりそういう素材でできた服って楽なんだよね」
「そうそう。んでジャストより1つ大きいサイズなんかだと……」
「もう最っ高」
わかるわあ、と大きく頷いたあと、「薫くんってそういう人なんだね」と言った。
「部屋着もお洒落なイメージがあった」
「とんでもない。部屋着には楽さとあえてのダサさを求める」
毛玉のできた派手な色のスウェットなんか大好物、と続ける薫くんに、わたしは今回もわかるわかると大きく頷く。
自分が17年間ズボラ人間として生きてきた意味がわかった気がした。