8月に入って数日が経った、気温が30度を越えた真夏日。
わたしは、薫くんとともに映画を観に、
自転車で1時間ちょっと掛けてショッピングモールを訪れた。
自転車で1時間以上掛けたこの場所が、わたしたちの住む地域から最も近いショッピングモールなのだ。
目的の映画は、アクション系の洋画。
わたしが自分の家でその映画の予告を見て、薫くんにアクション系の映画は好きかと問うたところ
大好物だと返ってきたもので、今日こうして、2人で自転車を1時間以上漕いだというわけだ。
「なに飲む?」
足元が黒を基調としたカーペットに変わり、視界には薄暗い中に光るたくさんのポスターが入ってきたところで、薫くんは言った。
「えっ?」と間抜けな声を出すわたしに、彼は「こういうときくらいしかかっこつけられないから」と笑う。
それから、なにを飲むかと改めて訊いてきた。
「金欠だって言ってなかった?」
「大丈夫なんだなあ、それが。
昨日、家族にはいとこに誘われたと偽って親父の実家に行ってね。
そこで祖父の肩を揉んで、映画鑑賞2人分の出費くらいどうってことないくらいの――」
キンを手に入れたのさ、と薫くんは親指と人差し指で丸を作った。
「悪い顔するねえ」
わたしが笑うと、薫くんは「久しぶりに会ったもんだからどんどん出てきたよ」とさらに悪い笑顔を浮かべた。