「弟くん、めちゃめちゃいい子じゃん」
わたしが言うと、シャーペンを走らせカリカリと音を響かせる薫くんは、「騙されちゃだめだよ」と首を振る。
「あいつ、他人の前では大人しくなるから。普段じゃ、友達と遊ぶ日用に買っておいたお菓子がないなんてなったら大騒ぎだからね」
「ああ、人様の前で大人しくなりやがるのすっごいわかる。うちの弟もそう。だから人様にはいい子いい子言われるんだよね」
「そうそう。みんな騙されちゃうから」
「ああ……。なんか、薫くんの弟くんとうちの弟が組んだら、日本中をも騙せそうな気がしてきた」
「絶対出逢っちゃいけない2人だね」と薫くんは笑った。
「出逢ったら最後。小さな2人に日本は壊される」
わたしのやる気はもうこの大量の宿題に壊されてるけどと続けると、薫くんは「どこ?」とシャーペンを置いた。
わたしが問題集の一部をシャーペンで示すと、薫くんは優しい声で説明を始めた。