2階にあるという薫くんの部屋へ向かう途中、綺麗な顔立ちのわたしより背の高い男の子が廊下を走ってきた。

家に上がってすぐ右側の部屋へ入ろうとした彼を、薫くんは「サトル」と呼び止める。

「なに?」とどことなく薫くんに似た声で振り返った彼に、薫くんは「お前今日タイガくんとこじゃねえの?」と言う。

「違った、うちって約束だったらしい。だから今、タイガくんうちにいる」

「お前それ何回目だよ」

サトルと呼ばれた男の子は、馬鹿にした表情で舌を出すと、逃げるように入ろうとしていた部屋に入った。


「弟くん?」と尋ねると、「生意気さが滲み出てるでしょ?」と薫くんは苦笑した。

「まあ気が強そうなのは否めないけど、すっごい綺麗な顔してるよね」

「綺麗な顔ねえ……。みんな言ってくれるけど、俺にはどうもうざく見えてしょうがない」

血縁関係って不思議だよね、と薫くんは笑う。

「まあきょうだいなんてそんなもんだよね。わたしの弟も、ご近所さんにはかわいい顔してるねえ、とか

将来絶対イケメンさんよおとか言われるんだけど、1ミリもわかんないもん」

まあ、と言うと、それを合図にしたように「べつにわかりたくもないけど」と2人で声を重ねた。