しばらく悩んだ末、黄色の他に薫くんにすすめられたオレンジとピンクのジャージを購入した。
先月のわたしが残してくれたものを含め8000円あった財布からは、3人の野口英世が羽ばたいていった。
今の財布には、今月母から受け取った1人の樋口一葉がいる。
店を出ると、一瞬の熱風と、ここへ向かっているときから聞こえていた蝉の声が出迎えてくれた。
「あっついねえ。車のボンネットで目玉焼きが作れるぜ」
「あれ本当に焼けるらしいよね。凍ったバナナでは釘も打てるらしいし」
自転車のほうへ向かいながら、隣を歩く薫くんは言った。
「この時期で怖いのって、ホラー映画の予告もそうだけど、それ以上にこの暑さだよね」
わたしが言うと、薫くんは「わかる」と一言で頷いた。