「何色が好きなの?」

ふいに後ろから聞こえた薫くんの声に間抜けな声を漏らし、「ああ、黄色かな」と返した。

薫くんは「へえ」と頷き、「まあ、ゆっくり決めな」と言ってくれた。

これが夢なのであれば、心の底から当分の間覚めないでほしい。


「今水色と黄緑持ってるんだけど……」

「おお」

思い切ったねと笑う薫くんに、部屋着だからさと笑い返す。

「それで、本当はそれぞれ上下セットだったんだけど、黄緑のほうはズボン、水色のほうは上着がなくなっちゃったの」

「ほお」

薫くんは驚いたように頷くと、「じゃあ……」と言った。

「そう、今は上下違う色着てるの。今はって言っても、もう何年もなんだけどね」

わたしが言うと、薫くんは「ハハハ」と笑った。

「初めて色違いで着たときは――」

家族に笑われたと言いかけ、家族というよりもガキが騒いでいただけだったのを思い出した。

「5歳下の弟がいるんだけど、そいつがすっごい馬鹿にしてきてさ。

『なにお前、そんなでかい服までなくしたのお?』みたいな。

わたしは『うるさい8年後に流行るのよ』とか言って」

弟くんきついね、と笑う薫くんに、きついっていうかうざいと笑い返す。

「俺も5歳離れた弟いて、きっかねえなと思ってたけど、里香の弟くんと比べたらどうってことなかった」

「へえ、薫くんも弟いるんだ」

言いながら、かわいい子なんだろうなと想像した。