店内は老若男女問わずたくさんの人で賑わっていた。

灼熱の太陽の下で自転車を漕いできたわたしたちには、

節電と称して冷房が本領を発揮していない上に混雑している店内はきついものだった。


「はあっ」

カラフルな上下セット、2本線のジャージを見つけ、音楽や人の声で騒がしい店内で「あった」と叫ぶように言う。

何度か人とぶつかりそうになりながら歩みを速めると、ジャージがある左へ曲がった。

ジャージが大量にあるという幸せに包まれていると、「すみません」という人様に向けた声とともに薫くんが到着した。

「なんかごめんね、灼熱の中1時間自転車漕いだと思ったら人混みの中を歩かされるっていう」

「全然。楽しいし」

「もう……」

そんなだからわたしみたいなのに振り回されるんだよ、と言うと、振り回されてると思ってないから、と薫くんは笑った。

素敵な笑顔を見せつけられ、薫くんはきっと、今後自分が出逢っていく人を含めても1番魅力的な人だと確信した。

これほど優しくて、純粋で、わたしは全くと言っていいほど求めない成績は常にトップで、おまけに顔もスタイルもいいと。

薫くんの笑顔に笑い返し、ジャージのほうを向き直って神様に願った。

すべてが完璧な薫くんと恋人という関係になることができたこれが夢であるならば、

どうかあと10年は覚めさせないでくださいと。