翌日、目を覚ましたのは10時半だった。
どんな服で行こうかと迷うのに30分ほど費やし、髪型を決めるのにさらに30分ほど費やし、部屋を出たのは結局11時過ぎとなった。
やばいやばいと言いながら勢いよくドアを開けると、なにかにぶつかった感覚と同時にドンという低い音がした。
「激痛、嫌がらせだあ」という声変わりの済んでいない独特な声が聞こえ、ドアの前にいた弟にぶつかったのだと知る。
「うるさいなあ、あんたがそんなとこにいるからでしょお?」
「いやお前が思っきしドアがんって開けっからだろ?」
「わたしがドアを少々雑に開けたところで、前にあんたがいなければぶつからなかったでしょ」
「俺がドアの前にいたってお前ががんって開けなきゃぶつかんなかったろうが」
「あー、うっせうっせ。ちょっとは黙ったらどうだ」
「うるせえとかちょっとは黙れとか、がっつり俺のセリフだし」
「はいはい。で、下行くなら早く行ってよ。わたしには時間がないの」
「なにお前、かわいいかわいい弟に怪我させてねえか心配で寿命縮んだのか?」
「違うわよ。わたしはあんたと違って暇じゃないから、急いでるだけ。
でもまあ確かに? あんたよりは寿命は短いかもしれないわね。
あなたみたいな憎まれっ子は世に憚るって言うから。
あなたほどになると、何百歳とかまで平気で生きてるかもしれない」
ふんっと鼻で笑ってやると、弟も同じように笑った。
階段を下りようとすれば、弟もその瞬間に階段へ足を伸ばした。
「邪魔だなあ」
ため息をつき、さっと階段へ足を伸ばすと、弟も一瞬のズレもなく同じように動きやがる。
それを何度か繰り返し、チャンスが巡ってきた。
弟が驚いたような表情でわたしの後ろを指さし、「あっ」と言ったのだ。
わたしが振り向いた瞬間に階段を下りてやろうという魂胆なのだろうが、そうはいかせない。
わたしは弟が静止している間に階段を駆け下りた。