家の方向が違った薫くんとは校門を出て間もなく別れ、わたしは走るように家へ向かった。

信号に止められたときは、少し前に人気女性歌手が出した曲を口ずさみながら待った。

過去の失恋を引きずっていた主人公が、運命をも信じられるような人と出逢えたという歌だ。


雨に慣れた梅雨の中 季節外れのクローバー――。


サビの直前で信号が青に変わった。

小走りで横断歩道を渡り、スキップをしながら続きを口ずさむ。


鍵穴へ勢いよく鍵を突っ込み、スマイルが描かれた黄色いシリコンでできた球状のストラップを派手に踊らせて鍵を回す。

扉を壊す勢いで右に引き、玄関内へ入ると「やっほーい」と叫んだ。


直後、空でカラスが鳴く。

あほう、とも聞こえるような独特な声だった。

振り返って今度は「アホじゃない」と叫び、扉と鍵を閉め、靴を脱ぎ捨てると部屋へ向かった。