言うなら絶対に今がいいという心の叫びに素直になり、待ってと言おうとした直後、
薫くんは歩みを止めた。
神様薫様ありがとうございますと聞こえない声で叫んでから放った
「あのさ」という声は、薫くんの声と見事なまでに重なった。
こちらを振り向いた薫くんと、視線も重なる。
遅刻ぎりぎりの猛ダッシュを思い出させるほどの鼓動を感じながら、「先……いいよ」と言った。
薫くんは形のいい唇を隠すように上下の唇を噛んだ。
少しして唇を開放すると、「あのさ」と改めて言う。
薫くん以外の人相手ならば、なんの用だ、さっさとしろと言いたくなるようなこの時間も、
不思議なことに当分の間続けばいいのにと思える。