残りの昼休みをみいとともに過ごし、5時間目の授業を迎えた。

薫くんは右手でノートに綺麗な文字を綴り、左手では3色のボールペンを回している。


薫くんはわたしをどう思っているのだろう、

もしも好きだなんて言ったらどんな反応をするだろうと考えていると、

大嫌いな中年男性教師の声に指名を受けた。


わたしが驚いて机に太ももを強打した直後、隣で薫くんがくしゃみをした。

わたしと違って、子犬のようなかわいらしいくしゃみだった。


「あーすっきりした」と目を大きくする薫くんに、そんな静かなくしゃみで?と言いたくなった。

「すいません、うるさくて」と数学担当の男性教師に笑う薫くんは、わたしを花畑のような場所へ連れて行ってくれた。


「はい、藤崎」

「ああ……」

せっかく幸せの国に行けたわたしを現実の世界へ引き戻すのは、

大嫌いな男性教師の、がさついた癇に障る声。

「ここ。答えろ」

「なんでわたしなの……。ええっと?」

黒板に並ぶ暗号に対し、素直に

すみません答えろもなにも問題の意味がわからないんですけどと言うこともできず、

今までの答えの感じから「64」と答えた。


「適当に答えたんじゃないだろうな」という男性教師の言葉から、自分が見事正解を言い当てたことに気づく。

男性教師が黒板に64と書き、「じゃあ」と言いながら振り返ったので不穏な数秒後を察知し、

瞬時に「わたし62って言ったんですけど」と訂正する。

彼が振り返りながらじゃあと言うのは、解き方を説明しろという無茶振りをする合図だからだ。