「薫くんってさ、暗算以外に興味があることとかないの? 恋愛とか遊び……みたいな」


昼休みが終わりに近づき、薫くんが暗算を終わらせてから訊いた。


「遊びなあ……。暗算が遊びみたいなもんだからさ。恋愛も特には」

薫くんは机に身を預け、顔だけこちらに向けた状態で答えた。

なんだか男性アイドルのポスターのようだなと思いながら、そうなんだ、と呟く。

わたしも薫くんを真似るように、彼と同じ姿勢になった。

空腹も満たされ、薫くんの暗算に付き合い程よく疲れており、目を閉じればすぐにでも眠れそうな気がした。


「羨ましいよ、恋愛に興味がないなんてさ」

「里香は誰か好きな人いんの?」

「ううん、今はいない。探し中……って言いたいけど、ろくな人いないかな、なんて思ってる」

「前なにかあったの?」

「ああ……」

それを聞いてしまうかと言うと、薫くんは聞いちゃう、とかわいい笑顔を見せつけた。

「中1で初めて付き合ったんだけどさ」

話し始めると、早速「早くね?」とつっこまれた。

「ただね? その人、運動はできるわ勉強もできるわ、背は高くて顔もいいし、おまけに性格も悪くなくて完璧なんだけどさ」

ため息をついてから「飽きっぽいんだよ」と続けると、「性格最悪じゃん」と薫くんは笑った。

「飽きっぽいって一番だめだろ。そんで? 中2に上がって間もなく振られたとか?」

「おっ、実に惜しい。付き合い始めたのが、細かく言うと中1の冬なのね。で、振られたのが中2の夏休み前」

「ろくでもねえ男だな」

そいつは男やめとけ、と薫くんは付け加えた。

小野寺 薫がかっこいいと騒ぐ女子に仲間入りしそうになったのは、気のせいだと信じたい。