食後、自分の位置へ戻ると、小野寺くんはすでに計算を始めていた。
「小野寺くんってさ、いつもお昼なに食べてるの?」
隣にきたわたしに気づいていないかのような小野寺くんに尋ねると、彼は体を大きく跳ねさせ、こちらを見た。
「びっくりした……」
「計算してるときって周り見えてないんだね」
わたしが笑うと、小野寺くんは「全く」と小さな声で頷いた。
「本当に計算が好きなんだね。将来ボケることはないんだろうな、羨ましい」
「本当にボケないといいけど……どうだろうな」
「なんか、すんごいおじいちゃんになってもひたすら計算してそう、小野寺くんって」
「ああ、そうしたいなあ……」
「そうしちゃいなよ。ああそうだ、見ると必ず計算してるけど、お昼なに食べてるの?」
「売店のパンと……自販機のお茶かな」
「そんなんでお腹いっぱいになるの?」
「まあ……うん」
曖昧に頷く小野寺くんに、わたしはハハッと笑った。
「食事に時間を使うくらいなら計算したい、って感じかな?」
少し恥ずかしそうに笑う小野寺くんに、「正解だな?」と笑い返し、
「計算大会、もうちょい待って。お弁当箱しまってくる」と残し、ロッカーのほうへ向かった。