途中、いくつかの信号に引っ掛かって行きよりも長い時間を掛けて家に着くと、玄関の前に弟がいた。


「あんた、なにしてんの」

自転車で砂利を踏む音に反応した弟と目が合い尋ねると、「お前どこ行ってたんだよ」と返ってきた。

「友達と服屋行ってたの。勝手でしょ」

それよりあんたは玄関の前でなにしてるのよと言ってやると、「鍵持ってねえんだけど」と弟は言った。

「えっ、開いてるでしょ? わたし出掛けるとき鍵かけてないもん」

「まじで?」

わたしのいたずらに引っ掛かった弟は驚いたように言うと、扉を右へ引いた。

「開かねえんだけど……」

「うそっ。ドア閉めたときにかかっちゃったのかな……」

「里香お前、鍵持ってねえの?」

「持ってないよ、かけてないんだもん」

「うそだろ……ちょっ、どうすんだよこれ……」

「お母さんが帰ってくるまで待つしかないよ」

いたずらを続けると、弟は「まじ最悪……」と扉にもたれ、座り込んだ。

いよいよ笑いを堪えられなくなってくる。

わたしは「これくらいで勘弁してやるぜ」と呟いた。

弟に聞こえたかどうかはわからない。


「……ばーか。んなわけないでしょお?」

ほらほらお退き、と弟を蹴ると、彼は疑問符を浮かべたまま立ち上がった。

「このわたし、里香お姉様が鍵をかけずに出掛けるだなんて不用心なことをするわけないでしょう?」

ほほほほ、と笑いながら鍵を開け、扉をも開けると、弟は舌打ちをし、「まじで冗談でなくなっかんな」と言って中へ入った。

わたしも笑いながら中へ入り、「まだ素直なところあったんだね」と言った。

「お前まじ最低」

「悪いがわたしの気分は最高よ」

ふふっと笑いを加えてやると、弟は黙って階段を上がっていった。