春
受験生となる3年生にとって、まだ心の余裕があるうちに校外学習という名の遠足がある。
これを楽しんだあとは、いざ受験競争の開幕というわけだ。
ある日、クラスで校外学習の打合せがあった。
『えーっと、まずは行きのバスの中、何かやろうと思いますが、意見ある人ーーー』
瀬野尾くんが教壇からみんなに問いかける。
その横で私は手にチョークを持ったまま、小さくなっていた。
苦手だ………
人前が苦手だ…………
ーー何かってなにぃー(笑)
ーー瀬野尾くん、超テキトー(笑)
ーーじゃあさー、副委員長は何がいいと思うー?
なんで、わたし!?
面白半分で男子が私をいじる。
ーー何もないのー
ーーじゃあさ、副委員長バスガイドやってよ(笑)
えつ!
ーーいーね!いーね!それ(笑)
ーー盛り上がるよ(笑)
ーーウケるー!(笑)
クラスの男子が勝手に盛り上がりだす。
私は恥ずかしくて下を向いたまま、なにも言い返せなかった。
すると
『おっ、いいねーそれ。やろやろーー』
え、瀬野尾くん………
私は瀬野尾くんの言葉に耳を疑った……
しかし瀬野尾くんは続けてこう言った。
『じゃあさ、それ面白そうだから、俺やるー(笑)』
…………え
ーーえー!瀬野尾がバスガイドー(笑)
ーーいやー!見てみたいー!
ーーやってーやってー!
一瞬にして私への注目はなくなり、みんな瀬野尾くんの提案に大盛り上がり。
男子も女子も瀬野尾くんのバスガイドが見たくて、それは大騒ぎとなっていた。
私はあっけにとられて、瀬野尾くんを見た。
けれど、瀬野尾くんはみんなとバカ笑いしながら、私のことなど気にもしていなかった。
結局、瀬野尾くんがバスガイドをやることで決定。クラス会は終幕した。
そして、そのまま放課になった。