秀くんがタバコを吸うと知ったのはつい先週のこと。

たまに、タバコの香りがするなーとは思っていたんだけど、職場で誰かが吸う移り香かな、としか思ってなかった。
吸っている姿も、吸いたそうにしている仕草も見せなかったし、車の中もにおいが気になったことがなかったから。
だから先週泊まっていった秀くんのズボンを洗濯しようとした時に、ポケットから半分残っているタバコの箱を見つけた時には本当に驚いた。
私は吸ったことがない。耕平も。
というか、私達の家族にも喫煙者はいなかった。
タバコというものがあって、そしてそれを吸う人がいるってことはもちろん知っていたけれど、どこか遠い世界の話、そんな印象だった。

「秀くん、これ・・・?」
床に置いたクッションに頭を乗せてごろんとしていた秀くんに声をかける。
「あぁ、悪い。入れっぱなしだったな。」
「秀くん、タバコ吸うの?」
「あぁ、たまに。」
「ごめんね、もしかして我慢させてた?私の前でも吸って大丈夫だよ。」
「いや、そんなに頻繁には吸わないから。お前は気にしなくていいから。」
秀くんが立ち上がり私の前に立つと、両手で私の頬を挟んで自分に向けさせる。
身長差があるので、かなり見上げる状態になるのがけれど、この状態にも大分慣れてきた。

「隠してたみたいで悪かったな。」
「そんな、私こそ気づかなくてごめんね。」
「滅多には吸わないんだ。たまに、行き詰まると吸いたくなる。」
「お仕事、大変なの、今?」
「それなりに。」

守秘義務があるから当然だけど、秀くんは仕事のことを何も話さない。
刑事さんって、本やドラマなんかではよく見るけど、あれはフィクションだし、実際はどういうものなのか想像もつかない。