血まみれの仔猫を胸に抱え、ハチ助が戻って来た。もう息はしていないことはわかったけれど、私は恐ろしくて直視出来なかった。

「目の前の車が轢き逃げした」

 ハチ助が泣いていた。

 ハチ助がTシャツを脱ぎ、仔猫をそれで包んだ。

「こいつ、どこかに埋めてあげる。ねえちゃんのバッグにこいつを……」

「ちょっと待て」

「こいつを」

「ちょっと待て」

私は自分のバッグに“こいつ”と命名された、猫の亡骸をいれるのは極めて抵抗を感じた。

「ねえちゃん偽善者か」

「うん。タロウのこと責められない気がしてきた」

「こいつを」

「わ、わかった……」

まだ1キロもなさそうな、小さな重みを手のひらに感じた。

 バッグの中に“こいつ”をいれ、私は上半身裸のハチ助の後ろに跨った。

 そして警察に止められた。

「―――君、なんで裸なの?」