森本コオは不思議な世界にいた。

はるかと映画を観に行くために駅へと急いでいたら、いつの間にか知らない町の中を歩いていた。

どこかに知った家か店はないだろうかと、十字路や曲がり角があるたびに、右へ、左へと折れて進んだ。

そしてふと気がついてみると、まわりに人がいなくなっていた。

通行人がいないばかりではない。コンビニにも、ハンバーガーショップにも、店員も客も、とにかく人という人がまったくいないのだ。

車道を自動車が通ることもない。バイクや自転車の影もない。遠くで電車が動いているような物音もしない。

夕方で、少しあたりが暗くなってきて、もの淋しい。

まわりの建物はまだ新しいのに、ここはまるで廃墟の町だった。

「おーい、誰かいないかぁ」

コオの呼ぶ声に応えるものはない。

「おおぉーい、だれかぁぁぁ!」

なおも必死で叫ぶ声は、薄暗い町の中に拡散し、むなしく消えていくばかりだった。