10日ほどになる。
晴太と口をきいていない。
もちろん顔を合わせていないし、メッセージのやりとりもしていない。
そして、そんな中作ったガトーショコラは失敗した。
バレンタインのあれやこれやが店頭に並んだのは、晴太と付き合って半月ほど経ったころ。
お菓子作りが得意なわけでも好きなわけでもない私が、わざわざ砂糖や小麦粉をこね回さずとも、おいしいチョコレートは容易に手に入る。
それでも晴太はあの笑顔で「ありがとう」って言ってくれるに違いない。
だけど、市販のチョコレートを買う以上に私に何ができるのかって考えた。
気持ちよく晴れた空みたいなあの人。
そんな人に気持ちを伝えるなら、買った高級チョコレートではない。
毎晩ネットで探し回った結果、雲の形のクッキー型を見つけた。
深い空色の箱に、空色のふわふわ紙パッキンを詰めて、そこに真っ白な粉砂糖をふった雲型のガトーショコラを浮かべたい!
イメージトレーニングだけは完璧で、材料も揃えてうきうきした気持ちを膨らませていた。
そんなバレンタインを翌週に控えた2月3日、豆まきしようよと晴太がやってきた。
「豆まきって大豆なの?」
晴太が抱えてきたのは、大量の煎り大豆だった。
「俺が好きなの」
「落花生買っちゃった……」
「大丈夫。それも好き」
子どもの頃は思い切りできた豆まきも、悲しいことに現実が邪魔をする。
「大豆だとあとで拾うの大変だから、撒くのは落花生にして」