表情が冴えないのはもちろん胃の重さもあるけれど、帰る時間が迫っているせいもあった。
気持ちが落ち込むと会話が弾まなくなり、それが焦りにつながってさらに気持ちを落ち込ませる。
悪循環にもがく私の目の前で、小川さんはサラッと伝票を持ち上げた。
「あ、待ってください! 半分出します!」
重い気持ちと身体ですがるように訴えると、
「じゃあ、残りは払っておいてください」
と、伝票と千円札を4枚渡して、さっさと車へ行ってしまう。
お会計は、図ったように4507円。
「もらいすぎです。これはお返しします」
助手席に乗り込むなり二千円を突き出す。
それをじっと見て、小川さんは困ったように言った。
「ミナツさんは、ごちそうされるのが苦手ですか?」
「うれしいですけど、今日は私の方が無理を言って連れてきていただいたんだし」
「無理はしてないですよ」
「それでもごちそうしていただく理由がありません」
また少し小川さんにお札を突き出すと、私の顔とお札を順番に見つめた小川さんが、真顔でするっと私の手からお札を抜き取った。
それはそのまま無造作に車のポケットに突っ込まれる。
「喜んで欲しかっただけなんですけどね。ごちそうするには、理由が必要でしたか」
くしゃくしゃになったお札が車内の空気を重くする。
だけど理由がない。
むしろ、私がお願いして車も出してもらったんだから、私がごちそうするべきだと思う。
それなのに、どうしようもなく悪いことをしてしまった気がして、何も言えなくなった。