レタスを手に取ってたっぷり10秒は見つめてから、そっと元に戻す。
食材の買い物が嫌いだ。
安いからって安易に買うと余らせてしまうし、余らないように買うにはちゃんと献立を考えなければならない。
ちなみに「冷蔵庫のありもので……」なんていう芸当はできない。
必要なものを必要分買うには、マメにスーパーに行かなければならず、それもまた面倒臭い。
色々考えた結果、パンに牛乳、ウーロン茶、少しの豚肉とキャベツ、ホッケひと切れ、冷凍された鮭の切り身などなど最低限必要なものをカゴに入れた。
そしてミント味のチョコレートも、メープル味のスナックも、フルーツもりだくさんのヨーグルトも。
これだから嫌なんだ、食材の買い物は。
余計なものを買い込んでしまう。
袋詰めをするカウンターのすぐ隣に、ビニール紐で情緒のカケラもなくくくりつけられた笹が飾られていて、自動ドアの開閉に合わせてさらさら揺れている。
カウンターの端には、長方形に切り揃えられた折り紙とペンもあった。
七夕か……。
短冊を書いたのはいつが最後だったか。
特別何かするイベントでもないだけに、毎年なんとなく過ぎてしまう。
当日になって今年も天の川は見えないなと、窓から夜空を見上げるだけ。
チラホラ揺れている短冊には、「志望校に合格しますように」という切実なものも、「世界平和!」という本気度がわからないものもある。
叶って欲しい願い事は、考えればたくさんある。
ボーナスアップとか、髪の毛の癖を取りたいとか、食べても太らない体質になりたいとか。
だけど、「叶えたい」と強く思う願い事は思い付かない。
ちらりとよぎった願い事は本当にささいで、叶えたいと思ったら星を頼らずとも自分の力で叶えられる。
だけど、それをしてしまったら、きっと何かが大きく変わってしまうから、私はずっと考えないようにしていた。
ほんの少しでも前に進んだら認めなければならなくなる。
だから願わない。
叶わなくていい。
そう思って、わざわざこの時間に買い物に出たのだから。
両手に袋を提げて自動ドアを抜けると、湿った強い風にあおられた。
雨を呼ぶ風だ。
見上げる空も濁った薄い青で、それさえ鈍色の雲に侵食されていっている。
今年も七夕には雨が降る。
星が見えなければ願い事は叶わなくて済むのだろうか。